ピアノの曲の中でも名曲はあまりにも多くて選曲するのに時間がかかることもたくさんあります。
ピアノを弾いていて、「あの曲を弾けるようになりたい」と憧れる気持ちは、習い始めの人もピアニストも同じです。
ピアニストたちも、「あの曲を自分の物にしたい」という気持ちを持って日々練習しています。またその気持ちが向上心につながります。
では、今回は比較的チャレンジしやすい曲で弾き映えのする、名曲中の名曲の一つをご紹介します。それは、ベートーベン作曲の『月光』です。
今回は、『月光』を初心者の為に、楽章ずつに分けて説明をしていきます。
第一楽章
はい。名曲中の名曲です。私が小学校4年生の時の映画鑑賞で、今でも心に残っているワンシーンがあります。
その映画のワンシーンとは、ピアノが上手な男子生徒に赤紙が届き、家族や一緒に戦地に行く友達を思い、真夜中の校舎の中で第一楽章を演奏していたというものです。
この時のピアノを弾いている男子生徒の気持ち、戦争中の背景などまだ幼かった私の心に響き、強烈に心に残っているのを感じました。
「なんて美しい曲なのだろう。弾いてみたい」と思い、すぐに楽譜を買いに行きました。第一楽章はまだまだ小さな手だった私には弾けませんでした。その頃ソナチネを弾いていたので技術的にも難しかったのです。
それから時は過ぎ、今でもその時に憧れて買った楽譜を使っています。第一楽章は静かに深い音で、でも静かなのに心の中に深い感情がある事を感じ取ることができます。
三連符が続くのですが、決してリズムを崩してはいけません。メロディーが深く心に響くように慎重に弾きます。また楽譜によっては、第一楽章の終わりあたりに「チェロのように」と書いているものもあります。
左手でメロディーを弾く時は、ピアノらしい音(アタックのある音)ではなく、チェロの太い弦を弓で鳴らすような力強さと、弦楽器ならではの温かみを出すようにしてください。あなたの持っている表現力を100パーセント使って弾いてください。
この曲のおかげでピアノでいろいろな楽器の音色を想像して、その音に近づけることができることを学びました。ピアノは、一人で演奏しているのにオーケストラに匹敵するダイナミックさと、表情を持っています。
そしてこの曲の面白いところは、毎回歳を重ねるごとに曲の熟成度が変わり、毎回新しい月光第一楽章になるので、飽きさせない1曲です。一度弾くと一生弾き続け、年齢を重ねるとともに人間性が成長し、その人間性がにじみ出る音楽です。
第二楽章
初めて第二楽章を譜読みした時、あまりにも平和な雰囲気なので少し驚きました。でもこの平和な雰囲気こそが、次の第三楽章の怒りを引き立てます。
譜読みは簡単ですが、続く和音の中でメロディーラインを出す工夫をしっかりしてください。メロディーラインをしっかりと表現すると、自然と第二楽章はまとまってきます。
第三楽章
第三楽章はピアノと感情が爆発するような印象を受けます。譜読みは比較的簡単にできますが in tempoでは弾くことはとっても難しいです。
ただ、音型は、それほど難しくないです。ゆっくり練習を重ねて、メトロノームで速度を上げていく練習をします。そして、最初から最後までテンポが早く休むことができませんので、スタミナを切らすことなく、気を緩めず、最初から最後まで一定の「怒り」に似た感情を持って弾きます。
でも実際に怒らないでくださいね。音に対してぶっきらぼうにならないでください。集中して、早くても音一つ一つを大切にします。蜘蛛の糸のようなピンと張った細い糸を最初から最後まで切らないようなイメージです。
そして、心の中に「弾ききってやる!」という気合を持って弾き始めます。何度弾いても気合が必要な曲だと感じます。
でも弾ききった時の最後の和音は、ピアノを弾く喜びを毎回最大限に感じさせてくれます。
まとめ
今回は、ベートベンの月光を解説しました。人それぞれ感じ方もありますし、表現の仕方もあります。あなたの月光はどんな音楽になるのでしょうか。難しい曲ですが、ピアノで表現する楽しみを感じることができ、一生の宝物になります。