『エリーゼのために』は古典派の巨匠であるルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが作曲したピアノのための楽曲です。
この楽曲はバガテルという種類に分類される音楽で、これは小品という意味があります。
ベートーヴェンはこの作品以外にも何曲かバガテルを作曲していますが、特に晩年に書かれた6つのバガテルという曲が有名です。
『エリーゼのために』が作曲されたのは1810年のことで、これはベートーヴェンがちょうど40代になる頃に作られた作品です。
この音楽のテンポは8分の3拍子で、8分音符をベースにして作曲されているために、一つ一つの音符が短めに演奏されるのが印象的です。
この曲はイ短調の属音を多く頻繁に使用しているところに際立った特徴があり、この属音とそれより半音下がった音とを交互に演奏するメロディが繰り返された後で、この音楽の主題部分に入っていきます。
『エリーゼのために』の主題部分は和音をアルペジオで演奏するのが特徴です。
曲の明るいイメージにのせてアルペジオを演奏しなければいけないので、演奏者にはそれなりの技術が求められます。
この楽曲は大きく分けて二つのパートに分かれています。
この曲の中でも特に有名なのはヘ長調で始まる軽さのあるメロディです。
音楽はしばらくこの明るいメロディを展開して続けられますが、曲の途中から激しさを伴うメロディが現れます。
このメロディでは低音を継続的に使って激しさを表現しています。
この音楽のタイトルであるエリーゼとは女性の名前ですが、誰のことを指しているのかについては、さまざまな説があります。
一番有名なのはテレーゼ・マルファッティという女性を指しているという説で、この説では本当はこの曲のタイトルは『テレーゼのために』というものだったとされています。
楽譜に書かれた字があまりに雑だったので、テレーゼをエリーゼと読み間違えてしまい、『エリーゼのために』というタイトルになったと言われています。
このテレーゼ・マルファッティという女性はベートーヴェンの親しい友人の一人であり、一説にはベートーヴェンはこの音楽が作られた時期に彼女にプロポーズをしたという研究もあります。
実際にこの曲が作曲されたのと同じような時期に、ベートーヴェンから彼女に宛てた手紙が現在でも現存されていて、この手紙の中でベートーヴェンは「自分以上にあなたにとって明るい将来をもたらすことができる人間はいない」という意味の文章が書かれています。
この文章がベートーヴェンが彼女にプロポーズをしたという大きな証拠とされていますが、研究者の中にはこれはプロポーズではなくて、単に親しい女性友達に向けられた好意のある言葉と考える人もいます。
そのために、実際にベートーヴェンが彼女にプロポーズしたのかどうかは、はっきりしていません。
ただこの作品が書かれた原稿が、彼女が保管していた書類の中から見つかったのは事実であり、この作品になんらかの形で彼女が関係している可能性は大きいとされています。
一方で最近では、この曲は全く別の女性のために作られたという研究も進んでいて、ドイツ人の音楽家であるコーピッツは、この曲が同時代の女性ソプラノ歌手のために作ったという研究を発表しています。
『エリーゼのために』はベートーヴェンが作曲したピアノ曲の中でも特に有名な曲であるために、現在でも世界中の人に知られている音楽です。
クラシックに詳しくない人でもこの音楽のメロディを聞けばわかるといったレベルの、非常に有名な曲です。
ポップスの世界でもこの曲のメロディは頻繁に使用されていて特に有名なのが、1980年代に日本でヒットしたザ・ヴィーナスというグループの『キッスは目にして』という音楽です。
この曲は『エリーゼのために』のメロディに作詞家の阿木燿子さんが詩を書いています。