西洋音楽史では、日本において関ヶ原の戦いが行われた1600年から1750年までにかけて生み出された音楽をバロック音楽としています。
それ以前の時代はルネサンス時代であり、ルネサンス時代におけるルネサンス芸術に見られる特徴というのは、安定的な構図と遠近法を用いる事で非常に均整が取れ、規律を正しく仕上げられている様子です。
ルネサンス芸術に比較してバロックを見た場合建築や芸術作品に顕著なのは装飾の多さと曲線が多い形状であり、規律を重視するのではなく気まぐれなアイディアに重きを置いている事がよくわかります。
そのように気まぐれなアイディアにより仕上げる事によって生じる不揃いな状態とも言える様相をバロックと呼び、当初は総合芸術に対して使われていた言葉が音楽史にも当てはめて用いられるようになりました。
ただし、同じ言葉であっても含まれている意味合いには違いがあり、総合芸術に対して使われる場合にはこれまでの歴史が退廃したり堕落したものという蔑視するような意味合いが込められているのに対し、バロック音楽では一つの形式に固定化されるのではなく、様々な様式を取り入れるという柔軟な姿勢が込められています。
それまでは総合建築に対しては蔑視するような意味合いが込められていましたが、バロック音楽が有する意味合いにより次第に総合建築に向けられる目にも変化が起こり始め、19世紀になると音楽と共に美術と建築も蔑視される事なく、優れたものという評価を得るようになりました。
バロック音楽の前には既に美術が存在していましたが、美術において人間を描こうとした際に音楽が存在していなければ、どれほど高い演技力を見せたとしても感情を最大限に表現する事はできないという問題に直面します。
そこで、人間が持つ強い感情を力強く訴求させるためには音楽が最良の道具であると考えられるようになり、その結果現代においても馴染み深いオペラが誕生しました。
感情を力強く訴求させられる優れた道具であるという点から、オペラは1600年にイタリアのフィレンツェで誕生して以来瞬く間にベネツィアやローマ、ナポリにまで波及していきその勢いは留まるところを知らずフランスとイギリス、ドイツにも進出します。
各国にオペラが広まりその存在を知った作曲家達は、一様に古くから伝えられる伝説を参考にして演劇の劇中で繰り広げられる展開と音楽の展開を一致させるというテーマを掲げ、一致させられる物語の探求に勤しむ事になります。
絶え間ない探求の結果ギリシャ神話に伝わるオルフェウス伝説が最適であると取り上げられるようになり、採用された伝説と共に1607年にお披露目されたモンテヴェルディのオルフェウスという作品は、バロック時代のオペラにおけるありとあらゆる作品のモデルになりました。
抜群の相性と強い影響力により、作品は2世紀を超える年月にわたって絶好の素材として一目置かれ続けます。
また、バロック音楽は思想としては先進的な思想が根源にあるものの、奏でるために使用されている楽器に目を向けると新しい物は少なく、これまでの歴史の中にも存在していた古い楽器が使用されいるのも特徴的です。
中でもバイオリンはイタリアやフランスに多く存在していた職人が持つ高い技術が重宝され、今日においてもオークションに出品された際には非常に高額な価値が付けられ取引されるストラディバリもバロック音楽がきっかけで製造されるようになった逸品です。
さらに、バロック時代の音楽では器楽楽器の発展に伴い、従来は処理する事ができなかった共通規則を作るべく、1オクターブを
12分割し均等にする平均律が生み出され普及させた歴史もあります。